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番頭屋のしごと

ベンチャーにおける水面下の「成長痛」②

2023/06/08
# 管理部門改善# 管理部門再生# 管理部門の役割# 管理部門の成長

第1回:成長期における内部組織に潜在する成長ギャップ

 スタートアップから並々ならない苦労が実り、成長期に差し掛かった企業経営者は、これを飛躍に向けた千載一遇の機会と捉え、持続的成長をテーマのもと組織的運営に移行しながら、業績拡大に専心してゆきます。

 具体的には、経営者が自らチューニングしてきた対面するマーケットニーズや変化を的確に捉えてサービスや商品を適宜提供していく事業システムを、事業拡大とともに組織化したPDCAサイクルに変換してゆくために、人員、ツール、グループ研修等に積極的な投資を行っていきます。

 これらは試行錯誤しながら実装が進むほどに、規模の拡大や専門性が高まることで業績の増進も実感されるようになり、いわゆる「勝ちパターン」が見えてくるのも、このタイミングに思います。

 この過程においても、経営者は事業部門に対して直轄で積極的に投資とコントロールを行い、事業部門の「目標遂行能力」を鍛えてゆくことで、経営者自身をはじめ、事業に直結する部門およびその所属員は成長機会を得てゆきます。

 一方でこのステージにおいて、事業システムに関わる組織が順調に成長するほどに、管理部門や経営に対して以下に代表されるような不満(ストレス)が顕在化し始めます。

 1.どうも最近、販売に関する社内手続きが遅く商機を逃しかねない(契約書のチェック、注文書、
   請求書の発行など)

 2.どうも最近、自分たちが頭に入れていた数字と経理から報告される数値と違うし、遅いので役に
   立たない

 3.物を一つ買うにも誰に了解をとってからと経理に言われるが、レポートラインが複数あり、どこ
   に依頼すれば(または聞けば)よいか判りづらく、いくらまで使っていいのかも判らないので、
   同僚に聞いた裏技があるので、それを利用している。

 4.目標だけが高くなり、社内の依頼事項で他部署との摩擦が増えてきた。「連携」のキーワードを
   よく聞くが、他部署が何をやっているのかわからないので放置している。

 5.そもそも今頑張っていることで、どうやって報われるのか

 こういった局面では部門間の相互理解が無いままに、管理部門との摩擦の高まりが、次第に事業目標達成のための「足かせ」として位置付けられ、経営者直轄である事業部門のパワーに押されて、請求発行から回収、ところによっては上流のエビデンスの収集まで管理部門の仕事として定義されていきます。

 そしてごく少人数で運営していた管理部門が、物量的な作業増大に負けて、大事な戦力を無くし、機能不全に発展しかねない環境になります。

 管理部門が生成する情報を利用する経営会議等で多くの時間を、オペレーションの不備探しと責任追及を行う「モグラたたき」に費やしている状況に当てはまる場合には、成長のための時間が次第に内向きに費やされる「負のスパイラル」へと進んでいる要注意の現象の一つです。

 また、外的イベントの発生によって、内部バランスを崩すケースは、上記のように次第に蝕まれるケースよりも典型的で、おもに以下のようなイベント発生によって、管理部門に対して技能的かつリソースの負荷が一気にかかったことで、大きな問題として発現します。私にお声がかかる場面の中でもこういった危機的な状況場面が多く見られます。

 1.上場準備の開始

 2.VC関与などの資本調達

 3.企業の再建や再生

 4.プロダクトの販売が飛躍的に伸び始めた時

 5.管理部門長や主要メンバーの連続した退職

 管理部門へのコストを極力抑えたいという経営陣の思考は企業運営においてはある意味正しい判断です。残念ながら経営陣自ら予防的に管理部門も並行して強化していこうというケースは稀であり、管理部門メンバーにおいても「経営陣はいつかは気付いてくれる」と期待しているところに大きなボタンの掛け違いがあります。そこで、管理部門が自ら可視化する等、オペレーションの実態を正しく把握し、自律的に効率化や補強など、提案型の組織として機能することで、計画的にコントロールでき、大切な人員を守りながらバランスよく発展していくことにつながると考えています。

 具体的に中に入ってヒアリング等を行うと、管理部門の主流となる経理財務や労務、採用を中心とする管理部門は、これまで資金残高管理に伴う支払・給与支給をはじめ、税務対応(記帳代行の税理士との間)に特段のトラブルが無ければ問題ないとされ、これが担える人材で構成されています。

 企業が拡大する場面においては、管理部門員は自計化や内製処理のスキルはもとより、進化する会社全体の業務プロセスに関与して、適正な経理・労務処理に代表される管理部門の業務およびその先にある定点観測できる経営情報に結び付けるための設計と改変実行力が求められます。このスキル不足に対して一部の手探りでも率先して立ち向かうタフな人材以外は、管理部門員は一般的にはこれが供給される場面には恵まれないことが多く、失意のままドロップアウトしていった痕跡に出会います。

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